怪奇小説から平成を振り返る①~平成怪奇小説傑作集〈1〉 東雅夫 編
怪奇小説で平成を振り返る短編集。全三冊のうちの1冊目。
平成怪奇小説傑作集、1冊目読み終わったのでこれから第2集に入ります
— MiG (@Mikoyan_G) November 15, 2019
1の中では加門七海「すみだ川」がとても良かった。て言うかでも全部面白いしこの話あんまり印象ないなっていうのがない、まさに傑作集。 pic.twitter.com/U7eUksLh1x
吉本ばなな「ある体験」
菊地秀行「墓碑銘〈新宿〉」
赤江瀑「光堂」
日影丈吉「角の家」
吉田知子「お供え」
「角の家」と対になるような話でこの並びがよい!
冒頭から主人公がものすごくイライラしてるのがちょっと面白いけど、急にトーンダウンする場面でそれが反転してものすごく怖くなる。主人公にも取り巻く人々にも表情がなさそうに感じて恐ろしい。
私は詳しくないけどこの家の内部の配置は風水とか宗教的に何か根拠がありそうな?
小池真理子「命日」
痛ましくも不気味。ラストシーンは恐怖が絵画的美しさで表現されていて秀逸。
現在のどこか荒んだ主人公の生活と過去の穏やかさの対比が辛い。
主人公と母が必死に守ろうとしていたその穏やかさの残滓さえも理不尽に奪われるであろう未来が痛ましい。
坂東眞砂子「正月女」
死ぬことが決まっていて、親しい者たちが自分の死の準備をしている。
死が迫り主人公の眼差しの解像度が上がっているので、小さな悪意が増幅してこちらに伝わってきて居心地が悪くなるようだ。かと言って主人公も善良な人間ではなく、土俗的な因習と相まって非常に厭な味を残すラスト。
北村薫「百物語」
百物語を後輩と自室でする話。部屋の明かりを一つ一つ消していくのだが、ビデオの光源まで消すくだりが偏執的で怖かった。
先輩どうなってしまうのでしょうか。
皆川博子「文月の使者」
全部がもやっと曖昧でべちゃっとしてる。とらえどころのない悪夢のようでもあり滑稽でもあり死んだら実際こんな感じなのだろうか。なんだか実態がなくてグニャグニャしてるのに不吉な雰囲気が斬新だった。茶番が永遠に続くようなとてつもない閉塞感。
松浦寿輝「千日手」
閉じ込められた場所、閉塞感ではこの作品も。それぞれの並び順に編集の妙がある。本当に楽しい。
ぽつんとある古アパートの一室で少年と将棋を指す描写が静かで美しくて好きだ。
生意気で大人びているが子供らしい少年少年の口から人が変わったように語られる内容は怖いけど痛ましく哀しかった。
霜島ケイ「家──魔象」
実際にあるらしい事故物件をモチーフに書かれた実話怪談風の話。"三角屋敷"でググるとそれらしきものがたくさん出てくる。
淡々とした筆致が怖い。最後で文体が変わるところが不気味。
篠田節子「静かな黄昏の国」
これが3.11以前に書かれた作品だということが一番怖い。作者の慧眼たるや。
現実に対する観察力が未来への想像力を生むのだなと思った。
主人公たちにはじわじわと侵食する現状に抗う力はもはや残っていない。彼女の最後の抵抗が物哀しい。
暗い閉塞感と奇妙な動植物たちの生命感のコントラストがグロテスク。
夢枕獏「抱きあい心中」
自分が釣りの世界を全く知らないので、ディテールがおもしろくて引き込まれてしまった。
ヒヤッとした川底の冷たさが感じられるような話。
加門七海「すみだ川」
因果の書き方がものすごく新鮮。異なる3つの時間軸が絡み合うストーリーなのだけど、その絡ませ方が巧妙で新しい。
哀切と恐怖がバランス良くてしかも闇が濃い。締めも美しくすごく好き。
宮部みゆき「布団部屋」
作品世界にすっと入っていけるリーダビリティがさすがという感じ。時代物なのに本当にスラスラ読める。
こういう、勇敢な姉が犠牲になってきょうだいを守る話って結構あるのかな。「安寿と厨子王」や、あと思いついたのは「隣の家の少女」とか。主人公とお姉さん以外の奉公人たちの描写が気持ち悪くてよかった。
まとめ
私のベスト3は加門七海「すみだ川」、松浦寿輝「千日手」、吉田知子「お供え」。
これ人によって結構違うはずなのでいろんな感想をこれから読んでみようと思う。
引き続き、平成怪奇小説傑作選2も読んでいきます。