読書で寝落ち

日々の読書記録です。

『三つ編み』レティシア コロンバニ

ちょっと前に読んだものだけど感想を。
 
スミタ、ジュリア、サラ。異なる国・まったく違う境遇に生きる三人の女性の人生が緩やかにつながっていく物語

 

三つ編み

三つ編み

 


スミタはインドのカースト制度の最下層であるダリット(不可触民)で他人の家の糞便を集めることで生計を立てている。
ジュリアは家父長制度が色濃く残るイタリアで伝統的な家族経営の毛髪加工会社を営んでいる。
カナダのサラは野心家のエリート弁護士でシングルマザーだ。

 
3人の主人公の中で特にスミタの章は印象に残る人が多いのではないかな。
彼女の置かれている環境があまりに過酷で、しかもその中で高潔さを失わない彼女の姿勢に心を打たれるから。
 
私はスミタの娘に私の娘の姿を重ねてしまって読んでいる間とても落ち着かなかった。
 
スミタが娘をダリッドの置かれている過酷な環境からから抜け出させ、より良い境遇に行けるようにとなんとか夫を説得して学校に入れるくだりは特にそうで。
 
自分に用意できる精一杯のきれいなサリーを着てお弁当箱を持って嬉しそうに学校へ向かったはずの娘が沈んだ顔で帰ってきたときの落胆は、こちらも胸がぎゅーっとしてしまって今思い出しても苦しい。
 

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この作品の美しいところの一つは乗り越えるべき敵・社会的なハードルに性別を限定していないところにある。

 

スミタの夫は優しく、娘を学校に入れるのにも賛成はしてくれたが、あくまで不可触民として生きる道を選ぶ。それはデメリット(想像を絶するほど大きな不利益ではあるが)を受け入れれば安定して暮らす「だけ」はできるからだ。
 
ジュリアの父親は優しく地域の働き手にも信頼されている。一方で重大な秘密を家族と社員に隠している。母親姉妹は保守的でイタリアの伝統的な家庭像を守るべきと考えている。
 
サラの上司は能力がある人間は重用するがそうでない人間には非常に冷酷だ。しかしガラスの天井を打ち破ってきたサラに直接打撃を与えるのは彼女の後輩の女性だった。
 
主人公たちも完璧な女性としてあるのではない。
ある一面からは無謀で傲慢と捉えられることもあるかもしれない。
しかしそれは厳しい現実をを切り開いてく力でもある。
 
人は「こう」というステレオタイプとしてあるのではなく多面的な存在であると、作品全体が語りかけてきているようだ。
そのうえで何か希望を持てる道はないかと懸命に探る主人公たちの姿が一つのモチーフで緩やかに結びついていく姿が美しかった。