読書で寝落ち

日々の読書記録です。

荒俣宏 編『アメリカ怪談集』

昨晩やっと読み終わった。

良かったのはビアスハルピンフレーザーの死』これは読み終わって何が起こったか理解できずに再読した。けどやっぱり出来事の全体が判然としなくて混乱した中に怪異の邪悪さだけ読後に際立って残る感じ。もしかしてわからないの私だけだったりするのかな…

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何を怖いと感じるか『事故物件7日間監視リポート』岩城 裕明

タイトルと章立てが日数で区切られているのに惹かれて購入。事故物件などの怖い場所の話が好きなのが一番かも。

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ストーリーはこんな感じです。

 リサーチ業を営んでいる穂柄は不動産会社で勤務している古い友人の清水からとあるマンションの一室の調査を依頼される。そこは7年前に妊娠中の女性が割腹自殺を遂げた事故物件であった。穂柄はバイトで雇っている優馬に事件があった909号室で寝泊まりさせ、管理人室からモニタで監視することにした。モニターに映る謎の子供、次々に起こる異変。調査期間の1週間の後に穂柄が作成したリポートとは…。
以下感想にネタバレあり。

青春は怪談とともに『文豪たちの怪談ライブ』東雅夫編著

明治~大正初期に流行した怪談会。現代の怪談ライブに通じる隆盛を稀代の"おばけずき"文豪としての泉鏡花を中心に紹介。
 

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自分では読むことがなかっただろう当時の怪談会のルポ、そこで語られた怪談の数々。
 
恐いゾッとるような話も中にはあるが全体の印象としてとにかく楽しそう。本当に楽しそう。第2章のタイトルは「我が青春の怪談会」。この言葉が本書を通じたテーマであると思う。
怖い話を聞いて話して怖がってるのになんだかキラキラとしていて。
 
明治時代の風俗も興味深く読んだ。
特に各怪談会で仕出された趣向を凝らしたおばけモチーフの料理なんかは現代でも美味しそうだし受けそう。
ハロウィンのときにゴーストやジャック・オ・ランタンの形の料理やお菓子を食べるのと似たような感じなのかな。和風怪談メニューもお盆の時とかに流行ったら面白いのにね。

本書の中で語られた数々の怪談の中で一番好きなのがこの話。
よく一緒に遊んでいる子供たちの中の一人がふといなくなって『宮のない神様にもらった』って言ってそのへんには生えてないはずの南天をくれた。その子は何回かふといなくなりそのたびに南天を持ち帰ったという。鏑木清方の奥さんの体験談です。
センスオブワンダーと「宮のない神様」って言葉に潜む少しの不気味さがえも言われずお気に入り。
 
当時の人達と現代に生きて怪談ファンである自分の共通点を見出して嬉しく、時代を超えた縁を感じることができた楽しい読書体験でした。

 

文豪たちの怪談ライブ (ちくま文庫)

文豪たちの怪談ライブ (ちくま文庫)

  • 作者:雅夫, 東
  • 発売日: 2019/08/09
  • メディア: 文庫
 

 

ホンモノとはなんだ『カメリ』北野勇作

"ヒト"がいなくなってしまった世界で"模造亀(レプリカメ)"のカメリはカフェでオーナーの石頭とヌートリアン(戦闘用ヌートリア擬人体)のアンと一緒に働いている。
カフェには"ヒトデナシ"の常連たちが仕事前にやってきていつもにぎやかだ。
ヒトの消えた世界で送るカメリたちの日常が掌編形式で綴られていく。

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ジュニアでも大人でも読んで佳し「死 内田百閒・林芙美子ほか (文豪ノ怪談ジュニア・セレクション 第二期) 」

文豪の怪談をジュニア向けに編纂したシリーズの一冊。編者は「平成怪奇小説傑作選」の東雅夫さんです。
これがシリーズ1冊目というわけではなくて気になった巻から読んでいます。

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 これは対象年齢どのくらいなんだろう?
10代前半には結構ハードなチョイスな気もするけど、こういう作品群を若いうちに読めるのはとても羨ましい。

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ちなみにすべてルビが振ってあり、かなり細かく注釈がついている。
この注釈の一部にめっちゃマニアックな情報が載ってるのも妙に気になる。

まあそれはそれとして。

本書の構成は有名な「トミノの地獄」から始まって観音様が迎えに来る「二十六夜」で終わる。
これがバッチリはまって美しすぎる。これぞアンソロジーの醍醐味。
また玉川麻衣さんの表紙挿絵もとても素敵。
想像の余地を残しているメージが付きすぎない絵なのに各話の雰囲気に合っていてとてもいい。

しみじみした余韻に浸ったと思ったら「幻妖チャレンジ!」と称して古事記の「黄泉の国」の下りの原文・書き下し文・現代語訳が始まるというストロングスタイル。

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わからないことがわかる!

書き下し文も話を知ってたからなんとか読めた感じ。
教養がほしい…


学校の古文でも万葉仮名では勉強しないから本当はこういうものだったんだって知るのは面白いよね。ジュニア向けの意義がある。
万葉仮名を解読した人すごいなー、それとも昔の人は普通に読めたのかな?とかいろいろ想像できると学校の知識が生きたものとして現れるのではないでしょうか。

収録作品はすべてキャラクターが立っているけれど、初めて読んだ作品の中では
原民喜「秋旻」、 日影丈吉「墓碣市民」、林芙美子上田秋成」、宮沢賢治「二十六夜が気に入った。

特に日影丈吉「墓碣市民」は平成怪奇小説傑作選1に収録されていた同作者の「角の家」にも通じる
飄々とした感じがあって楽しく読んだ。
存在とはなにかみたいな真面目なテーマ性がありつつおかしみのある読み口が重さを感じさせず好きです。

西條八十トミノの地獄」内田百閒「冥途」はもはや殿堂入りの貫禄。
それにしても「トミノの地獄」はどうしてあんなに音読したくなるのかな。かっこいいからかな。
「地獄くらやみ花も無き」ってフレーズめっちゃかっこいいよね。

ちなみに私はこの年になっても例の都市伝説にビビってるので一度も声に出して読んだことはないです。

 

 

『三つ編み』レティシア コロンバニ

ちょっと前に読んだものだけど感想を。
 
スミタ、ジュリア、サラ。異なる国・まったく違う境遇に生きる三人の女性の人生が緩やかにつながっていく物語

 

三つ編み

三つ編み

 


スミタはインドのカースト制度の最下層であるダリット(不可触民)で他人の家の糞便を集めることで生計を立てている。
ジュリアは家父長制度が色濃く残るイタリアで伝統的な家族経営の毛髪加工会社を営んでいる。
カナダのサラは野心家のエリート弁護士でシングルマザーだ。

 
3人の主人公の中で特にスミタの章は印象に残る人が多いのではないかな。
彼女の置かれている環境があまりに過酷で、しかもその中で高潔さを失わない彼女の姿勢に心を打たれるから。
 
私はスミタの娘に私の娘の姿を重ねてしまって読んでいる間とても落ち着かなかった。
 
スミタが娘をダリッドの置かれている過酷な環境からから抜け出させ、より良い境遇に行けるようにとなんとか夫を説得して学校に入れるくだりは特にそうで。
 
自分に用意できる精一杯のきれいなサリーを着てお弁当箱を持って嬉しそうに学校へ向かったはずの娘が沈んだ顔で帰ってきたときの落胆は、こちらも胸がぎゅーっとしてしまって今思い出しても苦しい。
 

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この作品の美しいところの一つは乗り越えるべき敵・社会的なハードルに性別を限定していないところにある。

 

スミタの夫は優しく、娘を学校に入れるのにも賛成はしてくれたが、あくまで不可触民として生きる道を選ぶ。それはデメリット(想像を絶するほど大きな不利益ではあるが)を受け入れれば安定して暮らす「だけ」はできるからだ。
 
ジュリアの父親は優しく地域の働き手にも信頼されている。一方で重大な秘密を家族と社員に隠している。母親姉妹は保守的でイタリアの伝統的な家庭像を守るべきと考えている。
 
サラの上司は能力がある人間は重用するがそうでない人間には非常に冷酷だ。しかしガラスの天井を打ち破ってきたサラに直接打撃を与えるのは彼女の後輩の女性だった。
 
主人公たちも完璧な女性としてあるのではない。
ある一面からは無謀で傲慢と捉えられることもあるかもしれない。
しかしそれは厳しい現実をを切り開いてく力でもある。
 
人は「こう」というステレオタイプとしてあるのではなく多面的な存在であると、作品全体が語りかけてきているようだ。
そのうえで何か希望を持てる道はないかと懸命に探る主人公たちの姿が一つのモチーフで緩やかに結びついていく姿が美しかった。
 

怪奇小説から平成を振り返る③~平成怪奇小説傑作集〈3〉 東雅夫 編

ついにたどり着いた3冊目。怪奇小説で平成を振り返る短編集「平成怪奇小説傑作選」を読んでいきます。15編収録。
平成31年含む令和元年中には書き終われなかった…!

めちゃめちゃ長い。そしてちょっとネタバレがあります、注意。
それぞれの感想を以下に。
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